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家族信託と遺言書、どちらを選ぶ?仕組みと違いを解説

相続の準備では、財産の管理や承継の方法を「生前からどう決めておくか」が大きなポイントです。ご家族の価値観を共有し、生前のうちに役割や方針を整理しておくと良いでしょう。遺言書は相続発生後の「最終意思」を示すものですが、生前の管理を家族に任せたい場合には別の仕組みが必要です。本稿では、遺言書と家族信託の考え方を整理し、どのように使い分けるべきかの視点をまとめます。
遺言書の役割 ― “相続発生後”の意思を明確にする
遺言書の目的は、相続発生後に「財産をどのように分けるか」を明確にすることです。遺言書の作成そのものも重要ですが、「家族の間で価値観を共有し、整理するプロセス」もとても大切です。
遺言書があることで、
・誰が何を引き継ぐのか
・どの財産をどのように扱うのか
といった点が明確になり、遺産分割協議が円滑になります。
特に不動産は分けにくく、全員の合意形成に時間がかかります。相続人全員の合意が得られない場合は手続きが遅れ、10か月の申告期限に間に合わないリスクがあります。
遺言書は「亡くなった後に家族が困らないようにする」ための整理であり、最終的な意思表示として重要な役割を果たします。ただし、遺言書はあくまで「相続発生後」の指示であるため、認知症などで生前の管理が難しくなった場合には対応できません。
「生前からの役割分担の明確化」を重視するなら、遺言書だけで十分とはいえない場面もあります。
家族信託の役割 ― 生前の財産管理を“家族に託す”仕組み
家族信託は、「生前の意思を家族に託す」仕組みです。家族信託では、生前の財産管理や運用を家族に任せることができます。
これは、
・認知症で判断が難しくなった場合
・不動産の老朽化や管理放置
・名義がそのままで売却や活用が進まない
といった“生前の管理問題”を家族が引き継いで支える形に近いものです。
特に不動産の未処理・放置は、残される家族の将来の負担になるリスクがあります。家族信託は、管理放置によるトラブルを避けながら、ご家族が状況に応じて柔軟に対処できる点が特徴です。
遺言書は「生前の最終意思」であるのに対し、家族信託は「生前からの働きかけ」を強める仕組みといえます。「財産の見える化」や「早めの相続準備」を実現できるのが家族信託です。
どちらを選ぶべきか ― “家族の状況”と“目的”で使い分ける
相続対策は、“制度選び”よりも“家族の状況整理”が重要です。その観点から、両者の使い分けは次の視点で整理できます。
1. 目的が「死後の分割」なら遺言書
家族関係を整理し、誰が何を受け取るのかを明確にしたい場合には遺言書が有効です。遺産分割は相続人全員の合意が必要であり、争いを避けるための重要手段といえます。
2. 生前の管理が不安なら家族信託
不動産の管理、空き家の問題、名義の整理などの負担に対処したい場合は、家族信託の考え方が適しています。特に老後の生活や認知症への備えとして、家族が管理を担う場合は有効でしょう。
遺言書は「相続発生後」の財産分割を指定するもの、家族信託は「生前の管理」を家族に託す仕組みです。しかし、制度の違いよりもまず「家族が価値観を共有すること」「財産を見える化すること」が相続準備の基本。どちらを選ぶにしても、ご家族の状況を整理し、生前から話し合うことで、相続時の混乱や負担を大幅に減らすことができます。
制度はそのための“手段”であり、目的はご家族の将来の不安を減らし、未来を描きながら円滑な資産承継を実現することです。
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