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旧家の相続で起こりがちな感情の対立

長く住み続けた家には、建物以上の価値があります。そこに積み重ねられた記憶や家族の歴史は、相続の場面になると強い感情として表れ、合理的判断と衝突しやすくなります。ご紹介する旧家の事例は、まさに「感情」と「現実」の調整が難しい典型例。本稿では、その事例をもとに、旧家をめぐる相続で何が起こりやすいのか、どのように対話を進めるべきかを整理します。

歴史ある旧家に宿る“思い”と現実のギャップ
B家では、母が長年暮らしていた実家が相続財産に含まれていました。家は古いものの、代々受け継がれてきた旧家であり、丁寧に手入れされた庭も残っていました。
この「家族の歴史を象徴する場所」であることが、まず感情面で大きな意味をもっています。
しかし、相続発生後、その家に住む人はいません。維持費や固定資産税がかかり続けることへの不安から、次男と三女は売却を主張しました。一方、長女は「母の思い出が詰まった家を残したい」と強く反対し、議論はすれ違いを繰り返しました。
ここで浮かび上がるのは、家に対する“象徴的価値”と、“維持負担”という現実のギャップです。
旧家の相続では、多くの場合、この2つの価値観が対立点になります。
感情を否定せず“事実を整理する”ことから始める
B家の事例で専門家が行ったのは、まず各相続人の思いを丁寧に聞き取り、“何が不安で、何を大切にしたいか”を明確にする作業でした。
特に旧家の場合、単に「残す/売る」という二択ではなく、家族が抱えてきた記憶や役割の差が背景にあることが多いため、感情を否定せず整理することが重要になります。
そのうえで、
・老朽化の状況
・維持費や管理負担
・将来のリスク
といった客観的な事実を可視化することで、家族が同じ土俵で話し合える状態をつくりました。
感情の対立が深いほど、主張だけが先に立ちやすくなりますが、事実を共有することでようやく議論が動き始める。
この点が、B家の支援を進める上でも大きな転機となりました。
納得感を重視した“落としどころ”のつくり方
最終的にB家では、旧家をそのまま残すのではなく、将来的な維持リスクを踏まえて売却する方向で合意が整いました。長女が納得できた背景には、単に売却を決めただけではなく、家の記憶を形として残す工夫があったためです。
旧家を写真や映像で残し、家族にとっての大切な時間を記録にすることで、「残せなかった」喪失感が軽減されました。また、家を手放す判断が家族の負担軽減にもつながることを共有し、感情と合理性の折り合いがついたことが大きな一歩でした。
この事例が示しているのは、旧家の相続は“正解”を選ぶ場ではなく、家族が納得できる選択肢を一緒に探していくプロセスが重要だということです。
歴史ある家ほど、単なる財産の一部ではなく、「家族の象徴」として扱われるため、合意形成には丁寧な対話と中立的な視点が欠かせません。
旧家の相続は、家族の記憶や役割が深く絡み合うため、トラブルが起きやすいテーマです。B家の事例は、感情と現実の両面を整理することで、家族が納得できる決断にたどり着けることを示しています。
大切なのは、家そのものではなく、“家族がどうありたいか”という価値観を共有し、時間をかけて話し合うことです。旧家の相続は、家族の未来を考えるための貴重なきっかけにもなり得ます。
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